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2006/07/01

人魚姫(アンデルセン著)

悲しい人生に対する態度

 アンデルセン童話の中で、とりわけ私はこの物語が好きだ。報われぬ恋に命を賭けて、海の泡と化す人魚姫の姿ほど、悲劇の美にふさわしいものはない。

_9112154  地上の王子に恋をした人魚姫は、魔女の力を借りて人間の脚を得る。が、その代償として持ち前の美しい声を失わなければならなかった。その上、歩くたびに鋭いナイフで刺されるような痛みを感じなければならないだろうと、魔女は予告した。
 人間の姿となった人魚姫は、王子のもとへ行く。人魚姫をたいそう気に入った王子は、いつも人魚姫を自分のそばに寄り添わせ、「かわいい捨て子さん」と呼びかけて、子供をかわいがるようにして人魚姫を愛したのだった。
 人魚姫のかわいらしい歩き方や、軽やかな踊りに、皆が感嘆する一方で、人魚姫は魔女が言ったような激痛に耐え忍ばなければならなかった。けれども王子のそばにいられる幸福は、そんな痛みを易々と超えるものだった。
 王子はこよなく人魚姫を慈しんだが、それは恋愛の対象としてではなかった。やがて王子の心を奪う王女が現れ、二人は愛し合うようになる。
 王子と結婚しなければ、人間の魂を得ることができず、死ぬ運命にある人魚姫にとって、愛する王子と、隣国の美しい王女の結婚は、王子を永遠に失うばかりか、自らの命の終わりを意味するものだった。
 二人の婚礼の夜、人魚姫はこれを最後と華麗に舞い続ける。この美しい舞踏に、ただひたすら人魚姫は、家族を捨て、声を捨て、すべてを捨て去って、命を賭けて求めた王子への愛をこめたのだった。

 婚礼の夜が過ぎ、朝焼けが訪れると、人魚姫は死ななければならない。しかしそれを免れるために、唯一の手段が残されていた。魔女からもらったナイフで王子を殺めるなら、人魚姫は再び人魚となって、生き長らえることができるのだ。
 人魚姫は眠る王子の枕元に立ち、ナイフを見つめた。王子が寝言で花嫁の名前を呼んだ。人魚姫の手の中で一瞬ナイフがふるえる。けれども彼女は波間に向けてナイフを投げ捨て、最後に王子を見つめ、静かに海に身を投げた。

 私が悲劇を愛するようになったのは、この物語ゆえだったのかもしれない。子供の頃「人魚姫」を読んで流した涙は、この物語を単に「かわいそう」だと感じたからではなかった。なぜか、今でも私はそんな大昔の自分の感受性を鮮明に思い出すことができる。
 自らの敗北を受け入れ、絶望と、その愛の深さを自覚しながら、海に身を投げる人魚姫の、悲しくいさぎよい姿に、子供の私は真の愛情の「美」を感じとったのだった。
 人魚姫は私にとって、かわいそうな悲劇の主人公ではなかった。自分の利益を優先し、計算高く振舞う大方の(私自身もそれに含まれるのだとしても)ケチ臭い人間とは違い、すべてを捨て、すべてに抗って、命を賭けてひとりの存在を愛し、自分の敗北を「認め」、その愛する存在の幸福を願い、ひっそりと退く姿は、あまりに悲しい、しかし凛々しく美的な敗者の輝きだった。

 「人魚姫」のディズニー版「リトルマーメイド」では、この美しい悲劇が、ハッピーエンドの物語に修正されている。そして、今ではむしろこちらのほうがポピュラーだろう。子供たちに「夢と希望」を与えるために、この物語が書きかえられたのだとしたら、そのような判断は必ずしも正しいとは言えないのではないか。
 昨年の11月にこのブログに載せた「フランダースの犬」の中で私が強調したのは、どんな努力にもかかわらず、夢や希望が叶わぬ現実に直面し、主人公のネロのように、ぎりぎりの苦しみの中で生きなければならなかったとしても、真の善良さ、愛ややさしさは、幸福という後ろ盾のないところでも芽生え、生き長らえるということだった。
 「フランダースの犬」同様、「人魚姫」もそうだが、苦悩の極限にあって、なお貫かれる愛情ややさしさが、こうした物語のむなしさを支える。そこには利害や駆け引きを超えた、「浄化された苦しみの美」があり、少なくとも私の子供時代に関して言えば、そうした物語により、苦悩に直面した時に自分がとる態度がどうであるべきなのかを、感動の涙とともに胸に刻むことができたのだ。

 もちろん、ディズニー・アニメーションの愛と夢に満ちた物語を否定しようというのではない。「夢はきっと叶う」という希望は誰にとっても必要だろう。だがそれだけではなく、この物語の人魚姫が、死を目前に、かすみゆく視界と絶望の中で、最後に見つめた王子の寝顔が、彼女の目にどのように映ったのかを、これを読むすべてのひとに、想像してもらいたいと思う。

(写真は過去の記事で触れた女神 Ayaka)

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コメント

海外重賞初制覇
ダンスインザムードおめでとう!!

さすが桜花賞馬、初代ヴィクトリアマイルの女王様!
サムライブルーが不発でも、ナデシコジャパンは快勝・圧勝!
かわいすぎる容姿とその強さ!
早起きして応援した競馬ファンの皆さん、
ほんと、嬉しいですね~。
エスピノーザ騎手、ありがとう。

Pepite

投稿: Pepite | 2006/07/02 09:37

Pepiteさん こんばんは!(o^∀^o)ノ

子供の頃人魚姫を読んで思ったのはなぜか魔女のおばあさんはひどい人と思ってました。
魔女なのになぜそんな条件をつけるの?とか
声を奪ったのに命にかかわる条件までだすなんて酷い!と思ってました(^^;)
でもPepiteさんのブログを見て改めて思ったのですが自分の命をかけてまで好きになるって凄いことですよね。
子供がいて子供のために命をかけることはあっても他人をそこまで好きになるのは本当難しい気がします。
所でPepiteさんの女神は本当にキレイな方ですね!
目が大きくて鼻が高くて小顔でとっても細そうでフランス人みたいです!
お肌もキレイで羨ましいです!!

投稿: ファズ | 2006/07/02 19:50

pepiteさん、お久しぶりです
この文章は昼間みたのと微妙にかわってません??
勘違いだったらごめんなさい。
人魚姫はディズニーのアニメで見たけど本当は悲しい物語だったんですね。知りませんでした。
写真の美しい方がpepiteの女神様なんだね。
かなりご執心という噂をきいてるけど、ほんとにきれいなひとですね。

投稿: N様の妻 | 2006/07/02 19:53

ダンスインザムード、万歳!!!!!
強すぎる!かっこよすぎるね!
明日のアサヒライジングの勝利も期待します。
馬券のほうはお互い散々だったけどダンスの勝利で
そんなことは忘れそう。
ペピちゃんの女神はとびきりの美人だったんだね。
是非紹介してください。
一緒に競馬場行きましょう!

投稿: ミスターX | 2006/07/02 19:59

>ファズさん

人魚姫は童話の中で一番好きなんです。
とはいえ、そんなに童話は知らないんだけどね。
アンデルセンの物語では他に「マッチ売りの少女」がお気に入り。
これについてもそのうち書くつもりです。
もともとこのサイトを立ち上げた時に、一番に頭に浮かんだのが「人魚姫」だったんだけど、
あまりにセンチメンタルになりそうな感じがして、先延ばしにしてたんですよ。
案の定、そうなっちゃいましたけど。
それから、私の女神を褒めてくださってありがとう。
とても嬉しいです。
彼女は美人であると同時に、とてもやさしい心を持つ、素敵なひとです。
ただ、気まぐれなので、何を考えているのかさっぱりわからず、私は大変な気苦労をしております。
ところで、昨日「アウターバードバス」という小鳥の水浴び器を買ったんだけど、これがまたもや不発・・・
一向に寄り付きません。
慣れるまでに数ヶ月かかるのかな。喜ぶだろうと思ってせっかく買ったのに、かなりショック・・・


>N様の妻

コメントありがとうございます。
そうなんです。書き換えました。
というのも、昨夜めちゃくちゃ酔っ払ってて、
その勢いで書いたものをそのままアップしてました。
これは前回の記事もそうだったんだけど、最近お酒を飲む機会が多くて、こんな失敗が続いています。
今朝、友人からのメールで、「なんか文章が変やで!」と指摘され、すぐに訂正しようと思ったんだけど、競馬に熱中するあまりに、後回しになってしまいました。
確かに、友人の指摘の通り、かな~り変でした。
それでもって、競馬が終わり、散々な結果にうなり声を上げながら書き換えたというわけです。
これに懲りて、もう酔っ払った日に記事を書くのはやめますよ。

そうです、写真の女の子が私の女神です。
とってもかわいいでしょ。
かなりご執心なんて噂があるんだ!知らなかったよ。


>ミスターX

ダンスの勝利に酔いしれた早朝からの勢いで、今日は馬券日和と勘違いしたのが悪かった・・・
散々な結果に全治3週間の重症。
まあ、こんなのはいつものことなので、気を取り直してがんばります。
ビーナスラインを本命に、2着にシーイズを指定したところまでは完璧だったのに、いつも来てほしい時には来ない、そして、来てほしくないときにやってくるいやな男、ブルーショットガンに、私の夢は打ち砕かれました。
タニノマティーニ、もっとがんばれよ!
しかしそれはもはやすべて過去のこと。
女神を紹介してだって?
冗談ではありません。
彼女はあなたのような凡庸な男が扱える存在ではありませんよ。
しかも競馬には興味なし。
というわけで、あきらめてください(笑)


投稿: Pepite | 2006/07/02 21:41

「人魚姫」って
男を見る目がないと一生苦労するよ 
という人生訓でございましたのね うふふ

投稿: dekako | 2006/07/02 22:04

ダンス、再放送で観れました! ホントにかっこいい! いつ見ても惚れ惚れする可愛いダンスインザムードですが、勝った時には、ひときわ美しさが増しますね! 
エスピノーザ騎手も上手かったですね!
素晴らしいレースでした!
アサヒライジングは、惜しい内容でしたが、3歳牝馬で海外遠征。 よく頑張ってくれました! 
 

投稿: sala | 2006/07/04 05:42

>dekakoさん

こんな恋はしたくないですね~。
っていうか、現実には有り得ない!
この物語はいろんな教訓を含んでると思うけど、
私は物語を読むときあまり教訓とかは気にしないタイプで、
もっぱら「美的なもの」に注目します。
もっと教訓に注意を払ってきたなら、今よりはマシな人生だっただろうな、と思いますけどね(笑)


>salaさん

夜中の1時に再放送してましたね。
う~ん、何度観ても素晴らしい勝ちっぷり!
美人で快速とは、最高の牝馬ですね。
秋も応援しましょう。
その頃には我らがスイープ様も復活してるだろうし、ディープ不在の天皇賞はこの2頭のワンツーで決まってほしいね♪
アサヒライジングは残念な2着でした。
エスピノーザはもっと前でレースしたらよかったのに、というファンの「怒りの声」が聞こえてきそうです。

投稿: Pepite | 2006/07/04 11:26

ディズニーの「リトルマーメイド」はハッピーエンドなんですね。アメリカって「フランダースの犬」もそうですが、ハッピーエンドに変えてしまう傾向がありますね。
でも物語が悲劇で終わってしまうと予測してみていて、ハッピーエンドで終わるとなんかホッとするのは私だけでしょうか?
子供心にハッピーエンドでない童話は、何故かとても悲しく、切ない記憶がいつまでも心に残っています。

人魚姫も良いですが、私はジドロゥの「オンディーヌ」が大好きです。

古典は人生の教訓を与えてくれ、単純な物語でもその中に数々の問いかけがありますね。
そして忘れかけていたものをふと思い出させてくれ、人間の原点に戻らせてくれる。
いつまでもこのような御伽噺の世界の心は失いたくないものです。

投稿: Diane | 2006/07/04 20:56

>Diane様

美しいコメントをありがとうございます。
知的で、美的なだけではなく、かわいらしいDianeは、永遠に少女の心を持ち続けることのできるひとなのかもしれません。

一昨日パソコンが故障し、あたふたしていたため、レポンスが遅くなってしまい、ごめんなさい。
今修理のためにメーカーに送っています。
いつ帰ってくることやら・・・

投稿: Pepite | 2006/07/06 17:07

Pepiteさま
パソコン・・いきなりですわよね 故障するのって。
ワタクシにも経験がございますのでお困りのご様子
お察しいたします。
一日も早くPepiteさまの素晴らしい文章を
発表できますよう、お祈りいたしますわ うふふ

投稿: dekako | 2006/07/17 12:30

dekako様

どうもありがとうございます。
もう修理は終わってるようなので、
そろそろ帰ってくると思います。
「でかい系ライフ。」に通う日々も復活するでしょう。
またよろしくね♪

投稿: Pepite | 2006/07/18 10:50

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