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2006/03/09

花になった美少年たち・前編(ギリシャ神話)

 花になった美少年で最も有名なのは、永遠の純潔、完全な孤独を象徴する美少年ナルシス(ナルキッソス)でしょう。このブログでも昨年11月14日に「美少年ナルシスの神話」で紹介しましたが、今でもこの記事が当ブログの人気NO.1の地位を保っています。これはもちろん、美少年ナルシスが時空を超えて今なお人々に愛されていることを意味するもので、私の出来損ないの記事は、そんな彼の人気の恩恵を受けたというにすぎません。
 ところで、あまりにも有名なこの悲劇の美少年の陰に隠れて、ほとんど目立たなくなっている二人の美少年がいます。彼らもナルシスと同様、若く美しい肉体を花に変えるのですが、ナルシスが生まれ持った性質から、人交わりのない孤独な生を宿命づけられていることに対して、この二人の少年はとても朗らかで、誰からも愛される幸福者でした。若くして命を奪われる彼らではありますが、そんなことから、悲劇の美少年の王座を、ナルシスに譲らなければならなかったのかもしれません。

「ヒアキュントスとアドニス」 

ヒアキュントス(ヒヤシンス)

 ヒアキュントスは多くの神々、とりわけ男の神々に愛された美しい少年でした。 彼は単に美しいというだけではなく、スポーツも万能で、戦にも強く、朗らかで申し分のない若者でした。
 そんな彼を従者にしようと熱望し、争ったのはゼフロスとアポロン。ゼフロスは西風の神で、アポロンは偉大な神ゼウスの子の中で最も男性美を誇る神。この争いでは、美貌の神アポロンが勝利し、ヒアキュントスを自分の従者にします。これでヒアキュントスをめぐるゼフロスとアポロンの戦いは、一見幕切れを迎えたようにも感じられますが、必ずしもそうではありませんでした。しかしそのことは、また後ほど・・・・

 ヒアキュントスを得たアポロンは、どこへ行くにもこの美少年を従わせます。美しく、優れたこの若者の従者はアポロンの自慢で、彼はこの上なくヒアキュントスをかわいがりました。
 ある日、いつものように連れだって出掛けた二人は、円盤投げをして遊ぶことにします。言うまでもなく、力に恵まれた神であるアポロンは優秀な投げ手であるわけですが、ヒアキュントスのほうも負けてはいません。しまいに二人は競技場の西と東にわかれて、どちらが遠くまで円盤を投げることができるかを競いはじめます。
 まずはヒアキュントス。美少年の投じた円盤は、力強く、高く遠く飛び、アポロンの足元に落下します。それを拾い上げたアポロンは渾身の力で、ヒアキュントスに向けて投げ返します。あまりにも高く飛んだ円盤は、雲を突き抜けたところで、かつてアポロンとヒアキュントスを奪い合って敗れた西風の神ゼフロスの目にとまります。二人に恨みを抱くゼフロスは、これを願ってもない復讐の機会ととらえて、強い風を吹き送ったのでした。
 ゼフロスの悪意の風に流されて、円盤はあっという間にヒアキュントスの頭部を直撃します。真っ青になって駆けつけたアポロンが目にしたものは、横たわり血を流す愛する少年の無惨な姿でした。
 アポロンはヒアキュントスを抱き上げましたが、もはや手遅れでした。美少年はアポロンの腕の中で、死に絶えようとしていました。ヒアキュントスを抱きしめて、アポロンは叫びます。
 「なんということをしてしまったんだ!こんな美しい若者を私は死なせてしまうのか!それができるなら、私が代わりに死んでいきたい」
 アポロンの叫びが響き渡ると、ヒアキュントスの血潮に染まった草が青々としてきて、そこから一本の美しい花が咲き出しました。
 アポロンはその花を、愛した少年の化身とし、ヒアキュントスと名づけたのでした。


 この古代ギリシャにおけるヒアキュントス(ヒアシンス)は、私たちが見知っているヒアシンスとは違う種類の花だったようです。 ヨーロッパの神話研究者として名高い山室静氏の著作『ギリシャ神話』(現代教養文庫)によると、ユリやアイリスに似た、真紅の花ではないかということです。
 それはともかくとして、この神話にも色濃く表されているように、古代ギリシャでは、男性の肉体美こそが至高の美として評価に値するものだったようです。精神性などに重きをおかず、明快な外面の美の勝利が確信される世界。私はそれを非常に清潔で、明晰なものに感じます。
 次回は花になったもうひとりの美少年、女神たちにこよなく愛されたアドニスの悲劇を紹介し、私なりのまとめを記します。

花になった美少年たち(後編)

  

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コメント

ペピートさんへ
昨日から何回もコメント書き込んでるのに
全然反映されない。どうなってんの?
またこれもダメなのかな。

女性美に関しては「衛生美人と翼賛美人」で
男性美に関しては「ヒアシンスとアドニス」。
これ、すごく差がない?
ペピートはもしかしてギリシャ人なのかな?
それと、もう春なんですけど、
雪景色のテンプレートのままでいいのでしょうか?
弥生賞は外れたようだけど、フィリーズはがんばって。

投稿: ミスターX | 2006/03/10 16:24

Pepiteさん こんばんは♪
ミスターXさんも書かれてますがnifty調子悪いのかな?
私も昨日からコメントしてるのですが投稿できてなくて(;ω;)

ギリシャ神話も面白そうですね!!
花の名前にそんな由来みたいなのがあるとは思いもしませんでした。
今まで神話と言えば聖書に載ってるノアの箱舟ぐらいしか知りませんでしたが・・・
(↑神話になるのか!?)
後は漫画やゲームで得た知識しかないのでゼフロスと聞くと悪いイメージがあります(^^;)
因みに、アポロンとアポロって同一人物でしたよね?…違ったかな?…
ブログ読んで思ったのですが美男子も薄命なのでしょうか?

投稿: | 2006/03/10 18:13

スイマセン。。。やっちゃいました上のコメント名前入れ忘れちゃいました(゚∀゚;)

投稿: ファズ | 2006/03/10 18:15

ココログ大変でしたわねぇ~

このお話しを読んで想像した紅い花は何故か
「彼岸花」ですのよ うふふ

投稿: dekako | 2006/03/10 20:16

>ミスターX

大変ご迷惑をおかけしました。
システムの不具合か何かで、私も昨日から全くログインできずに困っていました。

女性美をないがしろにしているわけではありませんよ。「衛生美人と翼賛美人」「ヒアキュントスとアドニス」では、確かに落差を感じられるかもしれませんけど、これはたまたまの流れです。
もちろん私はギリシャ人ではありません。フランス人です。
それから、私の心は年中真冬なので、現実の春が来ようと夏になろうと、テンプレートはこのままでまったく差し支えありません。
そしてもうひとつ、私の馬券の当たり外れを(当たりはいいけど)いちいちこんなところで言うな~!
では、また。


>ファズさん

本当にご迷惑をおかけしました。niftyは大変なことになっていたようです。私もイライラの極致でしたよ。時代に逆らって、livedoorに変えようかしらと、真剣に考えたほどに。

アポロはアポロンのラテン語読みです。つまり同じ人物です。芸術に優れた美貌の神で、神話好きの間では、大変な人気者です。
付き合うならアポロン、見つめるならナルシス、というのが私の意見です(笑)。
聖書(キリスト)とギリシャ神話のちがいは、キリストが一神教(唯一の神)であることに対して、ギリシャ神話には神がたくさんいることです。
キリスト教の唯一絶対の神が天地万物を創造し、愛と正義と威厳に満ちているのに比べ、ギリシャの神々は嫉妬したり、忘れっぽかったり、あまりあてにならなかったりと、なんだか人間臭さが漂っていて、おもしろいなと感じます。
八百万(やおろず)の神々を持つ私たち日本の神話も、そうしてみると、ギリシャのほうに近いのかもしれません。
真剣に祈りを捧げるなら、キリストに限らず威厳のある唯一絶対神、そして物語を楽しむなら、不完全な神がたくさん登場する神話ということでしょうか?!

美人薄命、美男も薄命。若くして命を落とすという衝撃が、その美しさをより輝かせ、不滅のものにするのかもしれませんね。
ファズさん、私たちはせいぜい共に長生きしましょうね(笑)!


>dekako様

ココログ大事件でした。
「でかい系ライフ。」にコメントを書き込むのにも大変な忍耐力が必要でしたよ。
ようやく元に戻って、一安心。
dekakoさんはラジオに出演したり、メルマガのオファーを受けたりと、益々ビッグになり続けてますね。
私も「でかい系ライフ。」のおもしろさにはまっております。
niftyブログで大人気のdekakoさんと、超人気薄の私がこうして関わりを持ってることを、私はとてもおもしろく感じています。
なかなか洒落た関係だと思いませんか?(笑)

投稿: Pepite | 2006/03/10 22:11

Pepiteさん オハヨ~です(o^∀^o)ノ
なるほど!もの凄くわかりやすいです!!
確かに物語を楽しむならギリシャ神話の方が面白そうですね!
うちの家はキリスト教でもなんでもないのになぜか聖書があるのです(^^;)
暇な時にたま~に読むのですが登場人物の多さと名前が聞きなれないせいか覚えられない・・・
(覚える気がないだけかも!?)

話が全然変わりますが・・・
もしかしたら知っていらっしゃるかもしらませんが、神戸花鳥苑オープンの予定が今月15日に決まったようですね!
昨日ひまだったので久しぶりにHP覗いてきました♪
前に私のブログで神戸花鳥苑のことお知らせいただいたのでお知らせ致しました(笑)
行くのが楽しみです♪
あっ!!後、弥生賞残念でしたね!次は頑張ってくださいね!(笑)

投稿: ファズ | 2006/03/11 09:26

ワタクシのブログはココログフリーでしたので まだ
マシだったようですけれども、他のプランの方は
丸2日ほどライターご本人のログインはもちろんのこと
コメントすらできない状態だったようですわね。
そんな中根性でコメントを書き込んでくださった
Pepiteさまのでっかい愛に感謝申し上げますわ!
うふふ

投稿: dekako | 2006/03/11 14:50

こんにちは^^
とても興味深く記事を拝見させていただきました。
アポロンのような美しい男性なら、ヒアキュントスのような美少年はとても絵になりますね。
今日映画「ブロークン・バック・マウンテン」を観たのですが、この映画のテーマは、同性愛でした。
激しい感情を押し殺し、表面は当たり前のように生きようとする二人の男性の愛と葛藤を描いた作品で、静かですがいい作品でした。

この作品のレビューはまだ書いていないのですが、今日久しぶりに2つの映画のレビューを書きました。
時間を見てまた書きたいと思います。

またステキなギリシャ神話の中のお話を読ませてください。
楽しみにしています。

投稿: Diane | 2006/03/12 17:09

>Diane様

Diane様の愛するGothicより、さらに時代を遡ったギリシャ世界ですが、
その後のヨーロッパ文化の基礎と言えなくもない神話の美や悲劇は、きっとDiane様の好みに合うだろうと、
そんなことをちょっぴり意識して、書きました。

The Gothicの映画のレビューはいつも本当に楽しみにしています。
先日紹介されたミュンヘンなどは、とても興味を惹かれました。もっとも、中東問題にそれほど明るくない私ですから、少し予習をして、観てみようと思います。
Diane様は、時々レビューを書くにあたり、観客のタイプを想定して、評価の分かれ目のようなものを示しておられますが、その手法は非常に効果的だと、私は感心しています。
ブロークン・バック・マウンテンのレビューが待ち遠しいですよ!
私は最近、犬童監督のメゾンドヒミコを観ました。
あまり語り過ぎずに、深いテーマを人間的な心情の共感という点に的を絞って描いた良質の映画だと思いました。
ただ、彼の作品ではジョゼと虎と魚たちのほうが私の好みには合いますが。
ではさっそくDiane様のThe Gothicを訪ねて、
ヨーロッパの退廃と幻想のムードに今夜も浸ることにします。


>ファズさん

新情報を知らせてくださって、ありがとうございます。
かわいい鳥たちに会いに、さっそく出掛けたいところなんですが、
今月は残念なことに多忙を極め、あきらめなければなりません。
4月1日にファズさんのブログの読者でもある超愛鳥家の友人と訪れることにしましたので(もちろん朝から!)、ファズさんももし都合がよければ、鳥たちの楽園でお会いしませんか~?


>dekako様

私もdekakoさんのでかさを見習って、いつもでっかくいようと思っていますのよ。
残念なことに、身体はでかくなりきれず、かといってミクロでもない中途半端な姿ですが、せめて心だけは、でかい系をめざしておりますの。
dekakoさんのよりいっそうのご活躍を願ってやみませんことよ!
うふふ
(偽dekakoより)

投稿: Pepite | 2006/03/12 22:50

素朴な疑問・・
「男性の肉体美こそが至高の美」ということは
女性の肉体美はどういうものだったのでございましょうか?

投稿: dekako | 2006/03/13 14:39

Pepiteさん こんちわ(o^▽^o)
少し前に実家から帰ってきました♪

4月1日は次の仕事が見つかってないかぎりおそらく暇してると思うのですがPepiteさんのお友達がいらっしゃるなか、私なんかがお邪魔してもよろしいのですか!?
でも、お会いできたら嬉しいです(*^▽^*)
かなりテンション上がりそうです!!(笑)

投稿: ファズ | 2006/03/13 17:18

>dekako様

古代ギリシャには男色に対して肯定的な思想があったようです。
ギリシャ的正統の男色世界と言われるように、男性が男性の美や知性に心酔することは、理にかなったこととして認められていました。
キリスト教による男色の否定までは。
(ギリシャ劇では、キリスト教が考えるような過剰な精神性はなく、むしろ外面の美のほうが信じられたようです)。
では、女性の美は?と、私たち女は疑問に思うわけですが、こちらのほうも同様に美しいものが良しとされているにしろ、男性美と比べると、その評価が劣る印象があります。
それにはおそらく、女性の社会的地位というのも関係しているのでしょう。
男性中心の社会で、男色が肯定されるとなれば、どうしても女性の影は薄くならざるを得なかったのかもしれません。
親切な私は、古代ギリシャの女性美では「でかい系」がもてはやされていたと、言いたくもなるのですが、そういうわけにもいかず、残念です(笑)


>ファズさん

お帰りなさい。実家で充電してきましたか?
4月1日は是非、いらしてください。
私の友人たちを紹介しますよ。
みんな鳥好きで、やさしい子ばかりなので、
きっと楽しい一日を過ごせることと思います。
これを機にお友達になりましょう。
もしも4月1日にご一緒できるなら、
このブログのプロフィールから私宛にメールを送ってください。
折り返し、当日の予定や私の携帯の番号、アドレスをお知らせします。

投稿: Pepite | 2006/03/13 22:57

丁寧なご解説ありがとうご存じます。
「風と木の詩」的世界でしたのね!
とても勉強になりますわ うふふ

投稿: dekako | 2006/03/15 17:10

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