トップページ | オフィーリア(ウィリアム・シェイクスピア著「ハムレット」) »

2005/11/04

春琴抄(谷崎潤一郎著)

「お師匠様、私はめしい(盲目)になりました。もう一生涯、お顔を見ることはござりません」 

 美は自らを語ることはしません。美を語るのはいつでもそれを見つめる者です。そしてその者は、対象となる美しさにふさわしい地位を与える役割を果たします。美を決定づけるのは、その美しさを「見つめる者」と書きました。しかし今日とりあげた谷崎潤一郎の「春琴抄」の一節は、その定義からすると、逆の様相を呈しています。

 この物語は、端麗にして高雅な容貌の女性、三味線師匠春琴に、ひとりの男が捧げた究極の愛の形を描いています。幼い頃から奉公人として、献身的に春琴に付き添ってきた佐助は、やがて春琴にとってもかけがえのない存在となっていきます。ある日、いまわしい事件により、春琴が顔に大火傷を負います。繊細で美しかった春琴の顔は醜く焼けただれ、回復の見込みもありません。そこで佐助は自らの目を針で突き、盲目となって、春琴の美を永遠に保持することを選んだのでした。冒頭に記したのは、そのときの佐助の言葉です。

 もはや見つめないことによって、その美を証明する。陶酔の世界に踏み込んだ愛の、恐ろしい、そしてそれだけに美しい悲劇です。

 谷崎潤一郎は明治19年に生まれ、その晩年まで(没昭和40年)近代日本文学の耽美派を代表した作家です。「春琴抄」は昭和8年の中央公論6月号に掲載された小説です。

 

|

トップページ | オフィーリア(ウィリアム・シェイクスピア著「ハムレット」) »

コメント

春琴抄読んでみました。
句読点がなくて読みにくい。
この作家の小説は全部こんな感じですか?

投稿: ken | 2005/11/09 23:14

いきなり谷崎か!
やっぱり耽美派だねー。
重苦しいぜ。
でも意外とあっさりしてるんでちょっと驚いた。
もっとくどい文かと思ってたけど。
またのぞきに来ます。

投稿: なりた | 2005/11/13 20:40

いつもお世話になってます!
春琴抄は私も好きで、3回は読んでます。
目を突くシーンを想像すると、ちょっとコワイけど(笑)。
マイル、頑張りましょうねっ!!

投稿: sala | 2005/11/19 15:02

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/151358/6892676

この記事へのトラックバック一覧です: 春琴抄(谷崎潤一郎著):

トップページ | オフィーリア(ウィリアム・シェイクスピア著「ハムレット」) »